今回は貿易とは関係のない話ですが、レストラン等で食事すると、それらの会食費(接待費用と言っても良いと思いますが)の内、91.5% は損金算入出来ない、と言う、メキシコでビジネスをしている方々は既にご存知の話をしたいと思います。

最近、税制改革が行われた為、会計事務所などのセミナーが盛んに行われ、その中でもこのパーセンテージが変わった、と言う話が出ます。

ただ、そのようなセミナーに出席しても、「以前は 12.5% まで損金算入出来たが、今回の税制改革で 8.5% まで引き下げられました」と言うだけで、何故そうなのか、このパーセンテージは何を意味するのか、と言う解説までなされる事は殆ど無いようです(少なくとも小生は聞いた事がありません)。

これは、小生の独断的理論ですが(恐らく間違っていないと思います)、歴史的に(と言うと大げさですが)、このパーセンテージがどう変わって来たか、を見れば明らかなように思われます。

今回、12.5% であった損金算入率が 8.5% に引き下げられた訳ですが、その前はどうだったか、と言うと、何時の時代に変わったか残念ながら記憶にありませんが、12.5% の前は間違いなく 25% でした。もう何年も前の話です。

大蔵省の人たちの立場になって、どうして 25% なり、或いは 12.5% なりの割合しか損金算入出来ず、残りは否認経費としなければならないか、と言えば、小生なりに考えれば、25% の時代には、「どうもレストラン等会食費の内、4回に 3回は仕事と全く関係なく、家族や友人と食事をしているのだろう。じゃぁ、残り 1回分だけ損金算入させてやろう」と言う事だったのだろうと推察します。

当然、25% から 12.5% に損金算入率が引き下げられた時には、「どうやら、25% では甘いようだ。矢張り 4回に 1回しか仕事上の必要性から食事をしているのではなく、どう見ても 8回に 1回くらいの割合だな」と言う事だと思います。

今回、12.5% から 8.5% と言う、半端な数字に引き下げられた、と言うのも、勿論国税収入を増やし、財政の健全化を図る、と言う意図はあるのですが、何パーセントが妥当か、と言う点で大蔵省内部でも種々 discussion がなされたのではないでしょうか(想像ですが)。結果として、10% では、12.5% とあまり変わりない、しかしながら、5% だと「20回の食事の内、1回しか仕事の必要性があって食事した訳ではない」、となり、それではあまりにも少ないのではないか、と言う事になり、8.5% と言う数字に落ち着いたのではないでしょうか(繰り返しですが、飽く迄想像です)。

実際、メキシコの企業のお偉いさん方は、結構友人や家族などと食事した場合でも自分の会社宛てに factura(invoice)をレストランから入手しているようですね(日本も中小企業の社長さんなどは同じような感じらしいですが)。

ただ、どうせ家族や友人との食事も会社につける、と言うような習慣を防ぐことが出来ないのであれば、パーセンテージではなく、限度額を決めてもらった方が良いように思いますね。例えば、4人で会食して総額 8,000ペソとか 10,000ペソなどになると、それはちょっと excessive じゃないの?とか。その方が企業家にとっては、気持よくビジネスが出来るようなきがするのですがね。

レストランの食事代にパーセンテージを掛け、一部を損金算入、残りを損金不算入とわけて法人税を算出するなんて、経理処理が煩雑になるだけで、そんなところでちょこちょこ税金を勝ち取ろう、とするのも少々いじましい根性のような気持ちもします。

大体、メキシコは不自然までに多くの経理スタッフが必要になるように税制ができているのではないかな、と思います。まぁ、小生は会計士でもなんでもないので、傍から見ていてそう感じる、と言う程度のコメントなのですが。

税制改革が行われた、と言っても、まぁ、IETU、つまり単一企業税が廃止された、とか、現金で銀行口座にデポジットする際の税金が廃止された、と言う、簡素化に貢献する面もあるのですが、改革の内容の殆どは税収入の増加が目的のものです。

税金を簡単に算出して払えるような制度になっていかないのですかね。

そういえば、ある会計事務所のセミナーで、レストランの factura」と言うところで、"factura" を「レシート」と解説がされたようです(小生自身が出席していたのではないので、定かではないのですが、ある出席した人から入手した資料に、手書きの書き込みがされていました)。

「レシート」と言うと、ちょっと違うんじゃないかな?と思いました。

メキシコの場合は、連邦税法典(CFF と略されます)に基づき発行された正規の invoice を factura と呼びます。つまり、レジが発行するようなぺらっとしたレシートでは、8.5% さえも損金算入出来ない事になります。

しかも、現在では電子インヴォイスが義務付けられているので、送付先の電子メールアドレスは勿論、会社の正式社名、RFC(納税者登録番号)、納税者登録住所をレストランで会計する時に伝えて上げる必要があります。

ところで、このレストランの factura の事を "invoice" と訳したら、ある日本人の方は、「え?インヴォイスなんですか?領収書ですよね?」と不思議な顔をしておられました。

まぁ、アメリカなどでレストランで食事しても invoice を下さい、と言う事はないでしょう。その場合は、矢張り receipt で良いのだと思います。メキシコが少々特殊なんでしょう。

Invoice も実はそうですが、factura には「請求書」と言う意味と「領収書」(既に払われた場合)の両方の意味があります。但し、CFF の内容を見ても、「代金を受け取りました」と言う意味よりは、「これこれのサービス若しくは商品を渡すので、代金を下さい」と言う意味が強いわけです。

その証拠に、単にお金を受け取った、と言う意味の領収書であれば、"Recibo" と言い、これは、税務上の確証でも何でもありません。つまり CFF に要件が規定されている訳でもなんでもないので、白い紙に「誰々さんから確かに金いくらいくらを受領しました」と書いて、サインすれば用が足ります。

日本の税制は良く判りませんが、日本は、メキシコのように「インヴォイス主義」ではなく、「支払い主義」である、と聞いたことがあります。つまり、支払いがなされれば、何らかのサービスや財が提供されたのだろう、と言う事になるわけでしょう。

メキシコの場合は、使途不明金やそれによる脱税が可成り中小企業などであるらしく、代金を支払ったら、それに見合うインヴォイス(しかも CFF で規定された要件を厳密に満足しているもの)がある筈だろう。でなければ、使途不明金で脱税しているのだな、と言う事になります。

と考えると、矢張りレストランで食事した後に貰うのは、「領収書」(つまり支払ったと言う確証)ではなく、「請求書」若しくは「インヴォイス」(つまり、これこれのサービス若しくは財を提供しました、と言う確証)が正しい訳になる、と言えるでしょう。

「支払いを済ませた後で貰うので『請求書』と言うのはおかしいのでは?」と思うかも知れません。そうであれば、日本語の場合、「納品書」ですかね。但し、メキシコには Nota de Remisión と言う、文字通り、商品を納入する際に発行するドキュメントが知られているので、それと混同する恐れがあります。尚、Nota de Remisión と言うと、通常単価や請求額などは出て来ず、貿易で言うなら、Packing list に近いものです(苦しい訳ですが、"Delivery slip" などと英語に直したりします)。

しかもレストランで食事した時に「納品書を下さい」と言うのも変ですよね。

となると、「後出しだけれど請求書だよ」と言う事で良いのではないでしょうか。

尚、レストランで食事する時に、現金で支払うと、この 8.5% さえも損金算入出来ない、と言う規定があったと記憶しています。

随分昔からある規定なので、ひょっとしたら最近(数年前とか今回の税制改革で)変わった可能性もない訳ではないと思いますが、クレジットカード、若しくはデビットカードで支払った、と言うバウチャーをレストランの invoice に添付しなければいけない、と言うことだったと思います。

これも、脱税のケースがよほどあるのでしょう。つまり、現金で支払うとその金額の確証が店の invoice しかない。店の invoice の場合、往々にして白紙で発行されたものに、客が勝手に金額を書き入れてしまう、と言うようなケース、或いは、レストランとは全く関係なく、invoice を捏造してしまう、と言うケースもよくあったそうです(メキシコシティーのある地区に行くと、適当なホテルやレストランの名前が入った海賊版の白紙の invoice 用紙が売られていたそうです。ある日系企業でも、何年か前に、メキシコ人営業スタッフがこのような偽のホテルの invoice を基に会社に対して reimbursement、つまり自分の立て替えた宿泊費用の請求をしていた、と言う事で解雇されましたね)。

尤も、電子インヴォイスが義務付けられたので、「クレジットカードのバウチャーとインヴォイス上の金額が合わない」と言うケースはなくなったと見ても良いと思います。

他にも、ガソリンを入れたら、クレジットカードかデビットカードで支払ったというバウチャーを添付しなければ損金算入出来ない、と言う規定がありましたが、あれもどうなったのでしょうね。

電子インヴォイスになったら、その必要もなくなったのではないかと思うのですが・・・。

通関において、現金か、若しくは Tesorería de Federación(連邦国庫)宛ての小切手で関税やその他の税金を支払っていた時代がなんとなく懐かしいですね。