NAFTA 再交渉の第 4ラウンドだそうです。
で、今朝(この記事を書いているのは
10月
14日の土曜日です)のニュースで言っていましたが、米国側は完成車の
RVC、つまり
Regional Value Content を現行の
62.5% から
80% とか
85%
に引き上げる提案をしたとか。聞き間違いかも知れませんが、80%
だったとしても大変な数字です。「げ。正気の沙汰か?」と思いました。
びっくり、と言うか少々ショックだっのですが、少し落ち着いたら「結局トランプと言う人はアホなのだな」と改めて納得しました。
だってそうでしょう。米国の意図は「米国製の原材料、つまり鉄板だのアルミだの素材、また、米国製の部品をもっと使え」と言う事です。
ところが、このように
RVC
を引き上げて果たして米国製の原材料や部品が使われるようになるでしょうか。
完成車メーカーの立場に立って考えると下記のようになるのではないかと思っています。
ステップ
1:急いで達成出来るかサプライヤーを皆呼び集めて協議・検討する。
ステップ
2:結論として、85%
もの RVC
を達成しようとすると製造コストがバカ高くなってしまう事が判る。
ステップ
3:RVC
を達成出来ないと諦める。
さて、RVC
を達成出来ないと諦めた場合どうなるのでしょうか。
結果は、「非
NAFTA
産品」、つまり「非原産品」として輸入関税を支払えば良い、と言う結論に至るということです。
元々米国の完成車の輸入関税はそれほど高くありません。念の為現行のタリフをチェックしましたが、一般的な乗用車である、関税番号
87032301(点火プラグで点火する・・・つまりディーゼルではない、旅客を輸送するための車両でシリンダー容量が
1,500 cc を超過し、但し
3,000cc 以下のもの)に該当する関税率は
2.5% となっています。
例えば、無理やりメキシコ製、カナダ製、或いは米国製の原材料や部品を購入し
RVC を達成し車を作った場合その製造コストが
10% アップするとしたら、「なんだ。メキシコ製の完成車でも原産地規則をクリアーせずに『非原産品』として
2.5% の関税を支払ったほうが安いや」と言う事になります。
いえいえ。10%
と言う大きいコストアップではなく、たといそれが
2.7% 程度のコストアップでも
2.5% と比べたら関税率の方が安い、と言う事になりますね。
となると、完成車メーカーも
Tear 1 自動車部品サプライヤーに対し「もう原産地規則はクリアーしないで良いよ」と言うでしょうし、Tear
1 サプライヤーも同様に
Tear 2 に対し同じことを言い、数珠つなぎで
Tear 2 から
Tear 3 へ、Tear
3 から Tear
4
へ、とどんどん原産地規則を忘れて良い、と言う指示が広がるでしょう。
すると、結果として何が起こるでしょうか。
当然の事ながら、完成車メーカーも全ての自動車部品メーカーも「なんだ。もう原産地規則は無視して良いのか。じゃぁ、これから世界中から自由に我々が必要とする部品や原材料を輸入してモノを作れるな」と言う事になります。
小生がこれら自動車部品メーカーの社長の立場だったら必ずそう考えるでしょう(その辺のビジネスに携わる人達の考え方をトランプさんはちゃんと把握しているのでしょうかね)。
結果として、寧ろ「自動車産業の
NAFTA
離れ、引いては米国産品離れ」が進む、と言う事です。
米国産の原材料や部品を使って欲しい米国政府の意向が皮肉にもこのような結果を招きかねないと小生は思っています。
しかしそれだけでは終りません。
これと並行して、これまで多くのメキシコ製の完成車を輸入して来た米国ですが、これは
NAFTA があるからであり、「メキシコで作られた車だけれど
RVC
を達成出来ていないので、他国で製造された完成車と同様一般関税率を支払わなければならない」と言う事になったら、つまるところ、これらメキシコ製完成車は他国で製造された完成車と「同じ土俵で競争しなければならない」と言う事になります。
つまり、中国製や韓国製、或いはブラジル製などの完成車が米国で幅を利かせるようになるであろう、と言う事です。
結果的に
NAFTA
圏内の自動車産業は衰退し、米国製の部品や原材料を使って欲しいと米国政府が期待していたにも関わらず産業自体が衰退してしまえばそれら原材料や部品の需要も伸び悩んでしまう、と言う結果になる可能性があります。
更に悪影響を言えば、矢張り米国民が困るであろう、と言う事ですね。
これまで安くて品質の良いメキシコ製の完成車が大量に輸入されていたが、同じメキシコ製でも関税分が高くなり、では中国製のほうが安い、と言っても品質に問題がある、と言う事で、結局はインフレも進むし自由に欲しいものが手に入らない、と言うこれまでブラジルなど保護政策を講じて来た国と同じように一般大衆が苦しまなければならない状況に陥る可能性があります。
因みにメキシコはブラジルと
ACE 55
と言う自動車産業を対象とした経済補完協定(一種の特恵関税協定)があるので、メキシコでもブラジル製の完成車は売られていますが、どうもこれらの乗用車を使った事がある人に言わせると、「ブラジル製はダメ。故障が多く、故障をディーラーにクレームして直して貰うが、何回クレームしてもちゃんと直らない」と言う事です。
とまぁ、これらの点を色々考えると、「矢張りトランプさんはアホだな」と思わざるをえない、と言う事です。
In : 貿易全般
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