良く「ビジネスマナー」と言いますが、メキシコではそのような言い方はしません。「マナー」と言う概念は勿論ありますが、挨拶などを含む「エチケット」にとどまり、例えば、上司への報告の仕方、同僚との付き合い方、仕事を能率よくこなす努力、などは知らない、と言うか、考えもしない人が多いですね。

その中で特に重要なマナーがいわゆる「ほうれんそう」でしょう。そう、皆さんご存知の「報告・連絡・相談」の事ですが、特に上司に対する報告は、「聞かれなければ報告しない」と言う人が多いですね。問題が起こったらすぐさま報告して欲しいと上司の日本人は思うのですが、これがなかなか出来ない。

また、更に事態を悪化させるのは、問題の責任は自分にはない、と主張しようとする性癖です。事実の経緯を知りたい時に、どうしてこのような問題が起こったか、と質問すると、「いや、自分はちゃんとやったが通関業者が(或いは税関が)どうのこうの」と言い逃れに近い説明をし始めます。「そうじゃなくて、事のいきさつを順序だてて話せ」と言っても、なかなか知りたい事を説明してくれません。

運輸に限って言えば、このような上司とのコミュニケーションの齟齬が大きな問題に繋がるケースがあるので要注意です。部下に「最近どうだ。何か問題が起きていないか。」と聞いても、「いえ、全く問題はありません」と答えるだけで、実は問題を上司に知られたくないのかも知れません。知られると叱られると思っている可能性があるからです。

このようなケースを防ぐには、日本人の上司(ダイレクターなど)とツーカーで話せる中間管理職、つまり運輸部長(Traffic Manager)などの責任者が必要になり、しかもその責任者は、彼の部下が行う運輸の実務に就きそれなりの知識を有している必要があります。また、単に知識を持っているだけでは駄目で、部下の仕事の内容に頭を突っ込み、「これはどうしてこう言うやり方をしているのか」とか、「これはこうした方が効率が良いのではないか」など、部下の仕事をきっちり管理出来なくてはなりません。

更に言えば、運輸部を任されている以上、運輸部の仕事の手順は正しいか、仕事の分担は妥当か、(自分自身も起用している通関業者とたまにはミーティングをして)起用している業者は適切なところか、もっと良いところがあるのではないか、わが社の利益を向上させる為には運輸部として何が必要か、などなど常に考え、向上に努める事が重要です。

ところが、これまで小生がコンサルティングを提供して来たお客様のなかで、このような運輸の責任者がいない、或いは、タイトル上の責任者がいても、上記のような運輸部責任者としての仕事が出来ていない、と言う会社がほとんどで、とても心配になります。ある会社では、その運輸の責任者が部下が発信するメールのコピーを受け取っておらず、部下が通関業者などとどのようなコミュニケーションを行っているか全く知らない、と言うケースがありました。

日本の本社に報告しなければならないような大きな問題(関税の未払いで多額の罰金や追徴金が課せられたなど)が発生した際、実務スタッフのミスが原因であっても、運輸部隊の責任者には部下の監督責任があり、日本人経営スタッフも運輸部をきちんと管理しなかった、と言う事になるのが普通でしょう。メキシコ人のマネージャーに全て任せていると、その辺りの自覚がないマネージャーであれば、非常に危険である、と言えると思います。

運輸部隊のトップにメキシコ人マネージャー、若しくは Assistant Manager(Subgerente)などを置いている企業では、その中間管理職の人間がどこまで実務を理解しているか、どこまで実務スタッフの仕事ぶりを見ているか、など今一度チェックされる事をお勧めしたいと思います。