こんなことは滅多にあることではないのですが、もうひとつ読者の方からのお便りをご紹介します。

この方は物流関連の会社に勤務しておられ、特に IMMEX やメキシコでの通関に関わるテーマに語興味がおありとの事です。

まず、頂いたメールをご紹介し、その後に小生からの回答メールをご紹介します。

**************(頂いたメール)**************

Subject: Re: 教えて 下さい。

(09/11/2010 09:55 p.m.)


伊藤様

 

はじめまして、nabe3434と申します。

 

私日本で乙仲系物流会社に勤務しており、海外の通関制度に興味を持っております。

そこで御教示戴きたいのですがメキシコの通関はどのようなシステムとなっておりま すか??

日本で言えば通関業者が代理して税関へ申告致しますが

メキシコでも同様に通関業者なるブローカーが代理して行うのでしょうか?

メキシコはアメリカ向け自動車の製造拠点となっているのでIMMEXを 絡めた通関となると

通常の手続きと違ったりするのでしょうか?

 

ちなみに日本での輸入通関料金は1SHEETあ たり上限が11,800円 と決まりがありますが

通関料金の基準などあるのでしょうか?

通常の輸入貨物の通関料金相場があるようでありましたら合わせて教示戴きたいと思 います。

 

お忙しいところ恐縮です。

宜しくお願い致します。


**********(小生の回答メール)**********


はじめまして。小職のブログをご覧になってメールを送付頂いたものと思います。


あまりブログをご 覧になって小職宛てにメールを下さる方もおらず、大変有り難く存じます。御礼を申し上げます。


さて、当国の通関 事情ですが、むしろ小職の方が日本の通関制度に就きそれ程詳しくもなく(必要な際に税関のサイトで問い合わせをするくらいで、そ れも頻繁ではありません)、「日 本と比べてどうか」と聞かれると困るのですが、メキシコの通関事情全般に就いては、下記の特徴が挙げられると考え ます。


1. 通関 業者のコストが高い。輸入・輸出に関わらず、通関手続きを行う為には通関業者を起用する必要がある点は日本と同じだと思います(ある 一定の金額以下で あり、個人の輸入の場合は通関業 者を使わず通関が出来る)。但し、仰るような「通関費用の上限」と言うものはなく、メキシコでは商品ヴァリュープ ラス全ての関税及びその他の税金 プラスその他諸費用(港に於ける埠頭使用料や cargo handling など)のトータル 金額にある料率を掛けて通関手数料が計算されます。

この料率は、以前 は通関業者が一種のカルテルを形成していた為、輸入の場合通常 0.45% と言う数字でした (輸出の場合は 0.18%)。つまり、例えば大量の資材を輸入して いる場合に、船積みの関税、その他税金、諸費用を含めた CIF value 1億円だったとすると、450,000 円もの手数料を通関業者に支払わなければ ならなかった訳です。


尤も、プロジェク トもので、大きな設備の輸入であれば、昔でもある程度のネゴは可能でしたが。


ところが、1994年の NAFTA 発行と共に、通関をスムーズに出来るよう にしなければならない、通関に於けるコストも下げなければならない、と言う圧力が各方面からかけられ(時代の趨勢 とも言えるでしょうが)この 0.45% と 言う数字が崩れて来ました。


今でも通関業者に よっては、一見の客であれば 0.45% を見積って来るところもありますが、その ような業者でもネゴする内に 0.35% とか 0.30% に下げて来るところが殆どでしょう。


尚、小口貨物で、 ヴァリューも小さく、このような料率を適用しても千ペソに満たない場合は、「最低料金」として 2,000 ペソ(約 150 ドル)程度は請求される事が普通でしょう


2. 通関 手続きが複雑である事。現在では政府相手に行う多くの手続きの簡素化が進んでおり、通関に関する法規制もある程度緩和されて来ていま すが、まだまだ複 雑で判りにくい、と言う事は言え るでしょう。(ブラジルやコロンビアに比べればまだましだと言われていますが)。


法的体系として は、連邦税典にぶら下がった形で通関法と言う法律があり(注:日本人の間では「関税法」と呼ぶ人もいるが、関税率を規定している法 律は別にあり、この法律は通関の 手順、通関業者や輸入者の義務、義務を怠った場合の罰則などを規定しているので、小職は「通関法」と呼んでいま す)、その下に「通関規定」及び 更にその下に「貿易細則」と呼ばれるルールがありますが、これらの間で整合性がもたれていない事があり、場合に よっては、貿易細則と言うヒエラ ルキーが最も低い規定で通関法の規定を覆してしまう事もあるので注意が必要です。


また、通関業者の ミスで大蔵省から罰金を食らったので通関業者を起訴する、などと言う場合も、しっかりとした書きもので証拠を残しておくべきで、 そうでないと殆どの場合通関業者 側が勝訴する、と言われています(これは、元もとの通関士と言うものが、町の有氏だった事が伝統にあり、通関法で も、通関士の要件のひとつに Good reputation を持っている、と言う事があるからでしょう)。


3. 通関 業者を「専門家」として認め、業務を任せる事が出来ない。通関士のライセンスを持っているのは個人で、通関業者と言う会社組織になっ たものは必ず通関 士がオーナーになります。この通 関士は(一応)大蔵省が実施する公的試験にパスした人たちですが、彼らが通関業者と言う会社組織の中で雇っている スタッフは必ずしも『プロ』とは 言えない人が多々います。


この為、書類だけ 渡し、通関を指示するだけでは後でえらい問題に発展し、最悪大蔵省から罰金、追徴金、現状化金利などの支払いを命じられる事もあ りますし、場合によっては輸入貨 物の差し押さえ、IMMEX 登録剥奪、などのケースも考えられます。


この為、メキシコ では、単に通関業者を雇い、業務を任せておくだけではなく、自社内部で通関を詳しく知っている人間をスタッフとして雇い、通関業 者の仕事ぶりをチェックする、ま た、間違いを犯さないように指導する、などが必要となって来ます。更には、これは小職がいつもお客様に進言してい る事ですが、定期的に起用してい る通関業者のパーフォーマンスをチェック・評価し、入札を行うことが重要となって来ます。入札の結果、今までと同 じ通関業者が選定されたとして も、「入札と言う『踏み絵』を踏む事で、自身のサービスを向上すべく努力する筈だ」と言う考え方ですね。


4. IMMEX を適用した通関。IMMEX を適用した通関は普通の通関とは違うの か、と言うご質問があったのでお答えしますが、普通の通関(確定輸入ステータスの通関)に比べそれほど違いがある訳 ではありません。下記の点があげ られるでしょう。


1) 関税 及び IVA の支払いが輸入時 には不要となる為、通関業者に対する費用の前金が不要となる。(通関業者は与信を行わないので、通常では前金をデポジットする必要が あ る)。(但し、特に海上貨物の場 合は cargo handling 費用などの分を前金で支払う必要がある場合もある)。


2) IMMEX 適用により、pedimento と呼ばれる税関申告書類のコードなど、記 入事項が異なる。また、その為には、「この船積みは当社の IMMEX 登録を適用し、一時輸入ステータスで手続 きしなさい」と言う、指示を輸入者が通関業者に事前に与える必要がある。


3) DTA と呼ばれる通関手続き費用(税関の書類処理費用)が異なる。確定輸入の場合であれば、商品ヴァリューの 0.8% であるところ、IMMEX 適用の一時輸入であれば定額(現在は 233 ペソ程度。半年毎に改訂あり)となる。(機械設備の一時輸入を除く)。



4) 一時 輸入と言う事で、商品の数量は Estimated Quantity と捉えられ、後日修正が可能(確定輸入の 場合、商品数量は pedimento の修正が出来ないデータのひとつ)。但 し、この修正を行わないと pedimento 上で申告した数量は確定したものと見なさ れる。


大体大まかな点は 以上かと思います。他にも更に詳しくお知りになりたい、などの点がありましたらお気軽にお問い合わせ下さい。



今後とも宜しくお 願い申し上げます。


伊藤亮