さてさて、また大分このブログもほったらかしにしていましたが、久々に何か書きましょう(そう言えば、2012年ももうおしまいです
ねー。何とも時間が経つのが早いもんですな・・・)。

以前小生のこのブログを読んだ方からメキシコの貿易制度にある貨物検査について相談を受けた事があります。このご相談の内
容と小生の回答をご紹介しましょう。

ではまず、ご相談の方から。

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小生、XX系コンテナ船社(日本支店)で仕事をしております。ブログを拝見し、メキシコ通関に関してお詳しいとのことで、一つご教
授いただきたいことございます。

先日、弊社のお客様のコンテナ貨物をアメリカ西海岸揚げでメヒカリまで輸送いたしましたが、その際にメキシコ国境越えでの
「プレビオ」という検査対象となりました。

現地側とのコミュニケーションの中で、この’プレビオ’が国境通関における物理的な貨物検査だということは分かりましたが、その
詳細がはっきりしません。貨物の明細は、XXXXXX のパーツであり、Long Beach港で揚げたコンテナをそのままメキシコ国境を越
えて、我々の手(実際には弊社の契約トラッカー)でメヒカリまで輸送します。

この「プレビオ」はコンテナを開扉し貨物の検査を行いますので、国境での待機時間が数時間に及び、結果として、この貨物輸送を請け負うトラック業者がその業務効率の悪さを嫌い貨物受託を敬遠しがちです。そのため、円滑な輸送が妨げられ、さらには不要なコストがかかるとして、顧客からのクレームが我々に向けられるケースがあるのです。

そこで、この「プレビオ」が実際には、どのような形式で行われ、この対象となる貨物がどのように選ばれるのか、もしご存知であれば教えていただけないでしょうか。

現地によると、今回の XXXX パーツは必ずこの「プレビオ」の対象となるとのことです。そうなると、同様の商品を受託するたびに、円滑輸送が妨げられ、問題が発生してしまいます。

お忙しいところ恐縮ではありますが、どうぞよろしくお願い致します。

XXXXX(海運会社の名前) XXXXXX(相談者の名前)

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さて、では小生の回答はどのようなものだったかと言いますと次のようなものでした。

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XXXXX(海運会社の名前) XXXXXX(相談者の名前)様

メールを頂き有り難う御座います。また、小生のつたないブログをご覧になって頂き深謝申し上げます。

さて、「プレビオ」ですが、スペイン語で "previo" と書き、"examen previo" の略です。日本語で我々は「事前検査」と読んでいます。

何故このような事前検査が行われるかと言うと、まず、2つの点を明らかにしておく必要があります。

ひとつは、この事前検査は「法的に義務付けられたものではない」と言う事。そしてもうひとつは、「当局が行うものではなく、通関業者が自
主的 に行うものである」と言う事の二点です。 メキシコの通関法によれば、「税関に提出された貨物(通関手続き前の貨物と言う意味です)の内容などに疑問がある場合には、通関申告
書を作成する者(つまり、通関業者のスタッフとなりますが)は、内容を検査する事が出来る」と規定されています(第 42条)。 では、invoice 上にきちんと商品内容が記載されていれば、Previo は必要ない事になるのではないか、とお考えかも知れませんが、
法制上は上記の通り」であるものの、実際の運用上では、通関業者はまず必ずこの previo を行います。輸入者が、自分が起用した
通関業者に対し「previo は不要だから早く通関を済ませてくれ」と要請しても、殆どの場合「必ず previo を行います」と回答されます。

何故このような検査をするかと言うと、実は通関業者自身の保身があるからです。メキシコ通関法によれば、通関業者や輸送業者は輸入者
の法的責任の連帯責任社と認識されており、この為、輸入される貨物の数量が invoice 上の数量より多い場合(超過分は当然『密輸』
と判断されます)、または、ドラッグなど禁制品がコンテナ内部に隠されていた場合などでは、通関業者自身も罰せられ、ヘタをしたら自身の
通関士ライセンスまで取り上げられてしまう恐れがあるからです。 また、普段扱わないような商品が輸入される場合には、当然商品の関税番号を確定する必要があり、previo はこの為にも実施されます。
一般的に言って、商品の説明を当地の通関業者に与え、関税番号を確定せよ、と指示しても、「関税番号これこれの筈だが、実際の 関税
番号は商品が到着し、previo を行った段階で確定する」というように、注釈付きで回答が来ます。 ただ、流れる商品で毎回同じものが輸入されるような際には、関税番号確定の為に事前検査を行う必要もない訳で、それでも毎回通関業者
がこのような事前検査を行う、と言うのは、矢張り「保身」が大きな理由であるからと言えます。

尚、この previo は、海上貨物で港に到着したものや、航空貨物で空港税関に入ったものに就いては、輸入の為に起用した通関業者自
身が行いますが、メヒカリなど国境では、 previo を実施出来るような保税エリアがない為、通常、メキシコの通関業者の子会社であるア
メリカ側の forwarder が倉庫にて行います(以前は小さい通関業者の場合、アメリカ側の独立系 forwarder と提携し、そこに
previo を行わせる、と言うケースもありましたが、現在では殆どの場合メキシコ通関業者の子会社でしょう。提携しているとは言え、自社
と資本関係もない forwarder が行う previo の結果は信用出来ない、と言う事です)。 アメリカからの貨物、カナダからの貨物、また、XXXXX さん(相談者の名前)が仰るような、日本から米国に揚げられ、米墨国境を越える貨
物は、殆ど全てアメリカ側の これら forwarder の倉庫に入れられ、そこで previo を受ける、と考えて良いでしょう(例外は後述しま
す)。 ではどうすれば良いのでしょうか。上記を踏まえ、下記の点が言えるかと思います。 1. Previo は、法的に義務付けられたものではない、また、官憲が行うものではなく、お客様である consignee が輸入通関の為に
起用した通関業者が自主的に行うものであり、依って、お客の方から通関業者と discuss して欲しい、と伝える事は出来るでしょう。 尚、これは、国境で consignee が自身の名義で輸入通関を行う、と言う前提です。例えば、国境ではトランジット通関でメキシコ入りし、
その後 consignee 名義で自分の通関業者を使って本チャンの通関を行う、と言う場合であれば、当然国境に於いては御社が起用した
通関業者がトランジットの通関を行うので、「consignee が起用した通関業者」ではなく、御社が起用した通関業者となるでしょう。 ただ、本件のような場合、メヒカリに本通関を行える内陸税関があったでしょうか? また、単にトランジットで通関する場合であれば、船会社が起用した(実際には船会社の現地代理店が起用した)通関業者は何十本もの
コンテナを通関する訳ですし、最終的な貨物の内容に関する責任は本通関を行う consignee となるので、previo は行わない筈で、
仰るケースでは、矢張り consignee 自身が起用した通関業者が previo を行なっているのだと想像します。 2. トラッカーが嫌がる、との事ですが、客が(客が起用した通関業者の子会社である forwarder が)アメリカ側の倉庫で previo を
行わなければいけない、と言っているのであれば待って貰う必要はあるでしょう。但し、上記の previo の現実もトラッカーに理解して貰い、
forwarder 倉庫で何時間までは OK だが、それ以上待ち時間が発生したら demurrage を支払う、そして、当然その分は
consignee に請求する、と言うアレンジを、トラッカー、御社、そして consignee の間で取り決める事は可能だと思いますが如何で
しょうか。 次に、previo を行わない「特別なケース」に就き述べます。下記のふたつの可能性があると考えます。 1. 米墨国境に近い、ティファナ、メヒカリ、レイノサなど北方地帯では、日系企業も含めマキラドーラ企業(現在では制度が変わり IMMEX
企業と呼ばれます)が多く、これらの企業は多くの場合 previo による時間的ロスを嫌い、また、通関コストを下げる為(previo を行う
と、カーゴのハンドリングが発生する為、輸入者に 200ドルとか 400ドルほどコストが掛かります)、マキラドーラ企業の団体が通関業者の
団体と交渉し、previo を行わず、スルーで(書類上の手続き及び税金の支払のみで)トレーラーをクロスボーダーさせる、と言うケースを聞
いた事があります。 当然その場合、「何か通関上の問題が起こっても通関業者は一切責任を負わない」などのレターを輸入者側が通関業者に対して差し出す
必要はあるでしょう。 本件の consignee に対して、このようなアレンジを通関業者との間で出来ないかサウンドされても良いでしょう。 2. もうひとつの例外ですが、通関業者のオーナー社長(通関士ライセンスを持っている個人)と話していると、輸入者が通関法第 100-A 条
に基づく「認定企業」として登録されていれば、previo は行わなくても良いよ、と言う事があります。認定企業に就いては詳しく述べません
が、簡単に言えば「大蔵省からお墨付きを得た信用に値する企業」と言う事が出来るでしょう。これも通関業者によってポリシーが異なるかも
知れませんが、往々にして客が認定企業であれば previo は不要、と言う通関業者が多いようです。 長くなりましたが、荷主さんからクレームを受ける筋合いの話ではないと考えます。勿論、上記の通り、御社が起用している通関業者がトラン
ジットの為に previo を行なっている、と言うケースでは、consignee からクレームを受ける可能性もあるでしょうが、本件の場合そのよ
うなケースではなく、飽く迄 consignee が起用した通関業者が(子会社であるアメリカ側の forwarder 倉庫で)previo を行なって
いる、と言う事でしょうから、客からクレーム等が来たら、「あなたのところの通関業者が previo を行なっているのでしょう?」と押し返す事
が可能だと思います(喧嘩になっては困りますが)。 また、トラッカーからのクレームを逆に consignee 側に伝え、previo をなくすよう通関業者と交渉して欲しい、でなければ、
forwarder 倉庫に於ける previo の為に発生した demurrage を今後請求しなければならなくなる、と改善を求める事も出来るで
しょう。 最後になりますが、その consignee は日系企業でしょうか。往々にして、日系企業にて勤務されている本社からの日本人派遣員の方々
は、メキシコの通関法など勉強する気もない、部下であるメキ シコ人運輸スタッフに任せきり、と言うケースが多いので注意が必要です。
また、メキシコ人の運輸スタッフ自身も知識不足もあり、更にはうまく 上司である日本人派遣員に対して説明出来ない、と言うようなケース
もあります。 長くなりましたが、その他追加のご質問などありましたらご連絡下さい。 伊藤

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とまぁ、こんな感じです。これをお読みになっている皆さんも、若し previo で通関が遅れた、と言うような事があったら是非上記を思い出
して頂きたいと思います。


そうそう。このご相談に対する回答では述べていませんが、特に機械設備を船積みする際には、シリアルナンバーがちゃんと
チェック出来るように梱包した方が良いですね。

シリアルナンバーは previo でチェックする重要項目の一つです。しっかり梱包し過ぎてしまうとシリアルナンバーをチェックする為
に梱包を壊さなければならない、と言うケースもあるので注意しましょう。

さて、来年はどんな相談があるのでしょう。また、どんな法改正があるのでしょう。

それでは皆さん、良いお年をお迎え下さい。