ちょっと前の話になりますが、ある日系の物流会社さんからこんなご質問を受けました。

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件名:保税倉庫について
【質問】

伊藤さん

掲題の件に関してですが、あるお客様よりメキシコやニカラグア、パナマ等、中米マーケット向けに現在アメリカの
FTZ(Free Trade Zone)にて完成品(消費者向けハイテク商品)を保税保管をしているスキームをメキシコで
対応できないかとの問い合わせを受けております。

物自体はアジアから輸入し、特に手を加えることなく、完成品の保税在庫として一旦メキシコ内にて保管、需要に応じてニカラグア
やパナマに輸出、場合によってはメキシコ国内販売も有得るとのことです。

1. この流れの場合には政府認定の保税倉庫会社を利用(Deposito fiscal)すれば対応可能という理解で宜しいでしょうか。
もともと該当アイテムの関税はゼロとのことですが、こちら保税倉庫のスキームでは IVAの支払いも免除されると理解しており
ますが、正しいでしょうか。

2. このお客様曰く、San Luis Potosi あたりにFTZがあり、そこでは無条件で対応可能と理解されているようですが、
メキシコにそのようなFTZが存在するのでしょうか。場所はどこであれ、保税倉庫のステイタスを持つ倉庫会社であれば
対応可能な気がするのですが、いかがでしょうか。

3.尚、こちらの会社はメキシコシティに子会社を持っているのですが、保税倉庫で保管する場合にはこちらのメキシコシティ
の子会社が輸入者となり、保税で保管することになるのでしょうか。非居住者在庫のスキームとして保税倉庫使用有無を調
べたことがあり、その場合には非居住者が輸入者として在庫を持つ形になりましたが、メキシコ国内に会社がある場合には
どのような扱いになるのかご教示頂けますと幸いです。

いつも面倒なご質問ばかりで恐縮ですが、ご教示頂けますと幸いです。

○○(質問者様のお名前)

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要は、メキシコにもそのような FTZ があるのか、あるとしたら「保税倉庫」とどう違うのか、と言う事ですね。

このご質問に対し、小生の回答は以下のようなものでした。

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【回答】



さて、ご質問の件に下記ご回答申し上げます。

1. ご理解通りです。IVA に関しても、保税倉庫から直接内貨にする事無く国外に再輸出される場合であれば、IVA の
支払いは不要となります。

2. この点に関しては少々説明が必要でしょう。

1) San Luis Potosi にある、お客様が言っている FTZ は、○○さんが仰る「保税倉庫」とは違い、"Recinto Fiscal
Estratégico" と呼ばれるものだと思われます。日本語訳すると、「戦略的保税ゾーン」と言いますか。(次のサイトによ
れば、2009年にオープンされたようです。
http://anierm-blog.blogspot.com/2009/07/inaugura-recinto-fiscalizado.html

2) 当地の関税関連法規に従いますと、この「戦略的保税ゾーン」と言うものは、港湾の税関区域と隣接している場所を特別に
保税区域として concession を与え、この内部で商品の保管、マテハン、修理、加工、などが出来る、と言う制度です。
San Luis Potosí の場合は、彼の地に「内陸税関」があり、これの隣接区域を「戦略的保税ゾーン」として開発し、この中で
輸入関税や IVA を支払う事無く、種々の作業を行う事が可能となっています。

3) これらを含む「保税」に関係があるコンセプトに就き、それらの違いも含め表にまとめてみましたので、下記をご参照下さい。


名称 用途・特徴 ほかとの違い
Recinto Fiscal(港湾・空港内部の税関管轄ゾーン) 税関が直接管理する。一般的な税関区 域の中で、特に民間の倉庫ではない部分 単に港湾や空港内の保管・管理
Recinto Fiscalizado 港湾・空港内部の民間企業が Concession を受けて貨物の保管などを行う為の区域。例:港の Terminal Operator や メキシコ空港内の KLM 倉庫など 保管、マテハンが可能。但し、加工や 修理などの作業は付加。
Recinto Fiscalizado Estratégico 港湾・空港と隣接する土地に特別に Concession を与えた地域。元々は自動車メーカーが、輸入する完成車にオプションやアクセサリーを付けたり、調整を行うため。この地域に輸入商品を入れる為にはその為 の特別のステータスのもと通関手続きを行う。 保管、マテハンの他、修理、加工など のオペレーションを区域の中で行う事が出来る点が、Recinto Fiscalizado や保税オペレーションと最も異なる点。但し、場所が限られ、San Luis Potosí の他、2 ~ 3箇所が存在するのみ。
Depósito Fiscal(保税倉庫) 大蔵省認定の保税が可能な倉庫会社と 契約し、特別なステータスのもと輸入通関を行う。場所は、倉庫会社の倉庫、また、自社倉庫を倉庫会社の管理下とする事で『保 税倉庫』としてのオペレーションが可能。 倉 庫オペレーションのみで、加工や修 理などの作業は一切許されない(ラベル貼付くらいは場合により許される筈)。反面、数ある大蔵省認定倉庫会社の倉庫のどこに でも保管する事が可能。また、自社倉庫を「保税エリア」として登録する事も可能(但し、契約した倉庫会社の管理下に置かれ る)。

3. これもいくつかポイント毎に纏めた方が良いと思われますので、下記をご参照下さい。

1) 契約相手が「大蔵省認定の保税倉庫会社」であれば、ご推察通り、メキシコ子会社が、倉庫会社と契約し、自身が輸入者
として輸入通関が可能です。

2) 或いは、必ず同子会社が輸入者になる必要はなく、アメリカ会社が直接メキシコ保税倉庫会社と契約し、輸入通関が可能です
(以前にもお話したと思いますが、非居住者が輸入者になれる唯一の通関でしょう)。

3) San Luis Potosí など、Recinto Fiscalizado Estratégico の場合は、実は生憎小職取り扱った経験がありません
が、法規制では、特別なそれ専用のステータスで輸入通関をする事になっており、これはメキシコ居住者でなければいけない筈です。
つまり、メキシコ側子会社が、Recinto Fiscalizado Estratégico 管理者、或いはそのゾーン内部でオペレートしている倉庫
業者と契約し、それ専用のステータスで輸入通関を行い、仕向け地である隣接した倉庫に持ち込む、と 言う事になると考えます。

4. 上記より、下記の事が言えるのではないかと愚考します。

1) お話を伺うと、商品を加工しない、と言う事ですので(「特に手を加えることなく、」とありますが、「手を加える可能性もある」と
言う事でしょうか)、 San Luis Potosí の「戦略的保税ゾーン」である必要はなく、また、特に販売先がその地方にあると言う
のではないのであれば、物流の観点から言えば、通常の保税倉庫会社と契約し、メキシコシティーなどどこの客先に配達するにも
交通の便がよく、メキシコ側子会社が身近で管理出来る保税倉庫をセットする方が得策かと考えます。(特に、保税倉庫の場合、
メキシコ子会社が自社で所有する、或いはレンタルする自社倉庫を『保税倉庫』として、セットする事が可能となりま す。但し、その
場合ですと、輸入者はメキシコ子会社となる必要があるでしょう)。

2) 逆に、箱詰めする、などある種の加工が必要である場合には、保税倉庫会社では不可能であり、その場合には、戦略的保税
ゾーンにて保管する必要があるかと考えます。(尚、保税倉庫にてどのような作業であれば許可されているかは実際に保税倉庫
会社に問い合わせて頂く方が得策でしょう)。

3) 尚、当地の保税倉庫会社は、既存の保税倉庫を使用する場合でも、或いは輸入者の自社倉庫を保税倉庫として assign
する場合でも、商品ヴァリューを基に何パーセント、と言う保管料を請求しますので、穀物など、物量に対しヴァリューが小さい商品
ではなく、ハイテク製品のように商品ヴァリューが大きいものである場合、保管料が可なり大きなものになる可能性があります。
San Luis Potosí などの、戦略的保税ゾーン内倉庫に保管するだけでどれほどの費用になるか把握しておりませんが、
コスト比較をしてみるのも一案でしょう。

4) また、一度確定輸入のステータスでメキシコに於ける輸入関税および IVA を支払い、中南米などに再輸出した後に、関税
分の Draw Back 手続きを行う、と言う方法もあるのでご参考までにコメントしおきます。ある日系企業でも、以前自社倉庫の一
部を保税倉庫として保税倉庫会社の管理下オペレーションを行っていましたが、上記の保管費用(実際にカーゴを動かすのは自社
従業員であっても、「大蔵省の手前、倉庫会社が管理している」と言う事で商品ヴァリューに対し何パーセントかの手数料を支払う
必要があります)の高さ、また、搬出の手続きが非常に煩雑である為、同保税倉庫会社との契約を解消し、現在では確定輸入
プラス Draw Back、と言うオペレーションを行っています。(注:保税倉庫オペレーションでは、pedimento 毎にどの商品をど
れだけ搬出するか、を一々確定し、それに基づき通関手続き料などを保税倉庫会社に支払う必要があります。例えば、A、B、C と
言う 3 つの pedimento から夫々一部商品を纏めて搬出しなければならない、と言う際でも、三件の通関手続きを行わなけ
ればならない、と言う事になります。)

5) これは、当社の PR になりますが、当社にて Draw Back をお客様名義で代行手続き出来ますので、若しそのお客様が興味
があれば、是非当社をご紹介頂ければと思います。

その他追加のご質問などありましたら、何なりとご連絡下さい。

伊藤

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と言う事ですが、戦略的保税ゾーンと保税倉庫の違い、クリアーになったでしょうか。

最近、メキシコの大蔵省は、この戦略的保税倉庫をもっと使ってくれ、と PR していますが、内部で加工や修理などの作業が出来るのは良いのですが、保管する場所が限られてしまう、と言うのが大きなネックでしょう。

ところで、上記の回答に更に付け加えるならば、Draw Back と言う制度は、商品が加工される場合にも適用可能です。

どう言う事かと言うと、例えば鉄板など原材料や部品を輸入し、その際に関税及び IVA を支払います。出来た製品を期限以内に再輸出すれば、関税の部分が還付される、と言う事です。

尤も、このように「加工を含む Draw Back」の場合、どれだけの原材料や部品を使ってどれだけの製品を輸出した、と言う加工プロセスの説明も経済省に対して行う必要があり、これが面倒でしょう。

ただ、作る製品の内、大半は国内マーケットであり、輸出はそれほどない、と言うメーカーであれば、管理がややこしい IMMEX の代わりにこの Draw Back を使う企業もありますね。

今回は少々専門的なテーマになってしまいましたが、メキシコにはこのように変な(面白い?)制度もある、と言う事で捉えられたら良いのではないかと考えます。