まぁ、ニュースをここで全文紹介する気もありませんので、詳細は下記をどうぞ。

http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/100212/crm1002120130001-n1.htm

でも、これってちょっと怖くないですか?

メキシコに於ける日系企業も本社の方から「輸送費増とか、こっちでカバーしてやるよ!」なんて言って貰って、「あー。良かった。これで安心」なんて事になっていると、後が怖いですよね。

これはつまり、本社と子会社の間でも、と言うかそのような親子間の間だからこそ、価格は適正なものではなければいけない、と言う事でしょう。海上輸送を航空輸送に切り替えたら、輸送コストの増加分をきちんと転嫁しなければいけない。でないと、不当に価格を下げた、また、下げた分は子会社に対する「贈与」だ!、と言う事になってしまいますよね。

貿易の世界では、「低廉譲渡」とか言う言葉があります。要は、不当に安い価格で販売すると、正規の価格と比べた場合の差額は贈与でしょ、そのような譲渡はいけませんよ、と言う事です。

で、この日本ケミコンのニュースでは、日本の国税庁が「贈与だからその分経費として認めないよ」と言う事で、お咎めがあった訳ですが、これは親会社側の問題ですよね。子会社側の問題はないのでしょうか。実はあるんです。

まぁ、中国政府(税関)が気付いていないのか、気付いているけれどまだ摘発していないのか知りませんし、このニュース記事だけでは判りませんが(タレこみとかしない方が良いと思いますよ。後で日本ケミコンから報復が…)、中国政府からしてみれば、「なんだ?海上輸送で届けられていた時と航空輸送で届けられていた時と、CIF ベースで値段が同じ?そんな訳ねーだろ!アンダーバリューで関税額をセーブしているに違いない!」と思うでしょう。小生が中国政府であれば当然そう思いますね。

例えば、この商品が偶然にも中国では関税率がゼロパーセントだったとします。そうかどうかは知りませんが。その場合であればじゃぁ問題はないのでしょうか。通常関税は商品のヴァリューに対して何パーセント、と定められているので、商品のヴァリューが変わっても、関税率がゼロであれば結局支払う関税もゼロであり、問題はないように思えます。

この場合、「国庫に対し債務が発生するか」と言う観点から言えば問題はないでしょう。脱税、とか申告漏れがあった訳ではないからです。しかし、「アンダーヴァリューの通関申告をした」と言う事実は残ります。

中国の通関関連法規など判らないのですが、中国も WTO に加盟している事より、このようなアンダーヴァリューは禁止しているでしょう。メキシコでも禁止されていますね。

メキシコの法律に当てはめて考えると、日本の本社(seller)とメキシコの子会社(Buyer)との間には vinculación、つまり資本関係があるので、この資本関係があっても、これが取引価格に影響していない、と言う場合初めて invoice value を関税の計算根拠にする事が出来ます。

そして、どのような場合に(親子間など)資本関係が取引価格に影響していないか、と言う条件は、メキシコの通関法第 69条にありますが、簡単に言うと、seller 側が「他の資本関係のない客先に向けて売る時の価格設定と同様の方法で設定した場合」と、「通常期待される利益を含んだ価格」と言う事です。

そして、この場合、「海上運賃を考慮した場合の価格」が通常の価格であったとしたら、「航空運賃を考慮しても同じ価格である」と言うと、メキシコであれば上記通関法第 69条の条件をカバーしておらず、取引価格(invoice 上に記載された価格)をそのまま関税の計算根拠として使えない、と言う事になります。

この不景気のさなか、日本の本社に色々な面で頼るのも仕方ないかも知れませんが、と「お上」からお咎めがあるような頼り方は後が大変です。本社との取引価格の操作や「物流コストの面倒を見て貰う」(結局価格操作になる訳ですが)などは、気を付けた方が良いですよね。